フレイム31話『目覚まし時計の神様』

補完話ポニータサイド。これでセリムズ以外のリクキャラ(アフロ編含めて)コンプ。
 
 

時はガーディアンのファイが襲われる数日前の事。ポニータドンメルはだらけていた。記憶喪失事件は未解決だが、目立った他の事件はない。リザードさんが仕事を探しに行っている間、暇を持て余していた。
「少年よ! 元気かい?」
そんな時、マッスグマのスグマがやってきた。スグマは料理上手なフェルがいないと聞いて残念そうな顔をした。
「そうそう、記憶喪失事件についての新情報だけど」
 スグマは本題を切り出した。記憶喪失事件と聞いてポニータたちは佇まいを直す。
「検査の結果、被害者に異常は認められなかった。それが不思議なんだ」
 スグマは言葉を切った。
「普通の記憶喪失は単に『思い出せなく』なるだけで、記憶自体はココにある」
 とん、と頭を指で叩く。
「脳の壊死や機能停止がないのに『記憶』が存在しない。つまり敵は『記憶』そのものを消せる、もしくは奪えるんだ」
「そんなことが出来るポケモンが……」
「でも実際起きている。今はプクリンギルドのメンバーが調査してる──心配しなくていい、あの親方なら解決できるさ」
「主人公としては他力本願で何とかなると思えな…」
「しっ、言っちゃだめよ!」
「……?」
 
 
 

ぴぴぴぴ。
目覚まし時計の音が耳障りでブラッキーのカイは顔をしかめた。先日、数日間だけ記憶喪失にされたブラッキーである。朝が弱い彼の為に友達がガンキチから目覚まし時計を手に入れたのだ。
材料も構造も人間の遺産、遺跡頼りだから、時計を持っているポケモンは片手で数えられるくらいしかいない。貴重品だとは分かっているが、毎朝うるさく叩き起こされていると苦手になるものだ。
 ぴぴぴぴ。ぴぴぴぴ。
(もう、うるさいなぁ)
寝たまま目もあけず手探りで枕元(頭の方向)を漁る。
「えい!」
手探りでボタンを叩く。目覚まし時計は止まり──
「あと、ごふん……」
 彼は二度寝した。
「……? なんか変だな」
彼が次に目を覚ました時には景色は一変していた。家じゃない。伸びをして目をこする。
「ここどこ?」
ずんどこずんどこ。ずんどこずんどこ。陽気な音楽。篝火。周りでホーホーたちが踊っている。
「おまつり?」
目の前には祭壇があって、そこに何故か目覚まし時計。ヒゲを生やした長老っぽいヨルノズクがホーホーたちの指揮をとっている。
ヨルノズクのおじさん! これなんなの?」
 カイの質問を無視して、ヨルノズクは祭壇の目覚まし時計に深々と跪いた。
「時の神の息吹きを知らせることのできるアイテム、それが実在するとは!」
「タダの目覚まし時計だよ?」
「今宵、時の神にイケニエを捧げようではないか!」
はにゃ?!」
 びしっと羽で指さされて、カイは変な声が出た。
「時を知らせる神聖な道具を乱雑に扱った大罪ポケモンだ、神も大層お怒りだろう」
「えっ? イケニエってオイラ? やだ死にたくない!」
逃げようとしたが動けなかった。足に枷がついている。カイの顔は青ざめた。
(どうする?! あ、そうだ──救難信号を!)
救難信号とはこの世界に住むポケモンが大抵肌身離さず身につけている『バッジ』の機能だ。カイのは探検隊バッジだが、一般向けの探検隊機能のないものも存在している。
毛の中に隠してあったバッジのボタンをカイは押して、ホーホーにバレないよう小声で言った。
「助けて! このままじゃオイラ、イケニエにされちゃうよ」
救難信号は10分以内にペリッパー経由で掲示板に張り出される。イケニエにされる前に助けがきますように。
 ──で。
「緊急の仕事が見つかったから行こうか」
「「はい!」」
 ポニータドンメルリザードさんがカイを助けにダンジョンに突入した。相変わらず♀に攻撃できないリザードさんは2階に1階無能になった。
ドーミラー(性別不明)なのに無理なんですか?」
「このフロアに出るのは女の子だからね……」
「じゃあオカマは?」
「性転換してたら無理だな」
「ドヤ顔で言わないで下さい」
 逆に♂の階の破壊性能は素晴らしかった。瞬殺である。極端すぎるだろ。
「リーダー行きま……あっ、リザードさんだった」
 呼び間違えてポニータはちょっと気まずくなった。これには、まだ慣れないのだ。
 そうしてダンジョンを進み奥地に到着すると──どこからか陽気な太鼓と笛の音が聞こえてきた。
「しっ、静かに」
 リザードさんがポニータ達を制した。三匹は身を潜めて音の方向に近づき様子を窺った。
 たくさんのホーホーが時計が飾られた祭壇の周りを歌いながら踊っている。そんな祭壇の下ではブラッキーのカイがキョロキョロしていた。
「彼が今回の依頼者だ」
「なんだか祀られてるように見えるのですが」
 ドンメルが聞くと、リザードさんは無駄にギザな感じに肩をすくめた。
「それならいいんだけどな」
 耳を澄ませると歌が聞こえてくる。
『時の神がましまして
 時空の狭間の奥深く
 時元の塔をばうち建てた』
 ずんどこずんどこ♪
『神の半身 時元の塔
 世界の時を刻む時計』
 ポンポコポコポン♪
『時を世界にもたらさん
 時元の塔の歯車を
 神は我らに与えしや』
 ズンドコドコドコ♪
「……なんか楽しそう」
 ポニータは呟いた。
「時の神ディアルガを信仰してる金剛教団だな」
ディアルガ……強そうな名前の神様ですね」
「白玉教壇と勢力を二分してる大手の宗教団体で、こいつはその中でも急進的なミミズク派だ。ちょっと厄介だな……」
 信仰の力は恐ろしい。論理的な説得が一番効かない相手だ。ホーホーたちは30匹もいる。強行突破は無謀すぎる。といってカイがイケニエになるのをただ見ている訳にはいかない。
「よしオロチ作戦で行こう」
「「オロチ作戦?」」
「酔わせて首を叩き切る」
 リザードさんは鞄からビンを取り出した。中には無色透明の液体が入っている。
「何ですか、それ」
「オトナの秘密兵器。きのみを発酵して作った酒ってやつさ。それで、作戦だけど……」
 リザードさんは作戦を説明した。金剛系の宗教団体には御神酒という概念があって、アルコール大好きなのだ。
「あの、私たち入信したいんです!」
 ドンメルポニータが進み出てホーホーたちに声をかけた。
「誰だ?」「見たことないやつだな」「可愛いな」
 ホーホーたちがざわめく。
 ヨルノズクが進み出て、コホンと一回咳払いをした。
「残念だが、我が一派はホーホーとヨルノズクのみ──」
「あの、これどうぞ!」
 ドンメルが酒を差し出すとヨルノズクの目の色が変わった。
「うむ、入信を考えてやらんこともないな」
 ビンゴである。酒で懐柔して酔わせている間にカイを助ける作戦だった。上手く行った──途中までは。
「ねぇちゃんたち変わってんねー」「うちの教団キビシイよー」「なんか一発芸してよー」
 酔ったホーホー達が絡み出したのは計算外だった。宗教家も一皮向けばオッサンだ。ハラハラしてリザードさんは藪の中から様子を窺っている。
 カイの足枷を外そうとしていたドンメルも酔っ払いに絡まれて動けなくなった。
「おねぇちゃんも飲みなよ」
 一匹のホーホーがドンメルに酒を勧めた。断りきれなくてドンメルはちょっとだけそれに口をつけた。ドンメルの体はすぐに真っ赤に染まった。
 視界が歪む。ふらふらする。なんだかとても気分がいい。
「──ひっく」
 普段から眠そうな顔をしているドンメルだが、今日ばかりは完全に目がすわっていた。アルコールはひとを変える。そしてポケモンも変える。泣き上戸、笑い上戸。色々あるが、それはまだマシである。ストレス貯まっていたのだろうか。
「ひっく、てめぇらうるせぇんだよぉぉおおお!」
 暴れ上戸だった。
 上空に岩が浮かんだ。
「大地の力ぁああ!」
「ちょっ、新技?! いつ使えるようになったの?!」
 大地の力:同じ部屋にいる敵に攻撃する岩タイプの技。
リザードさん助けて!」
「ごめん女の子は……」
「そうでした!」
 酔ったドンメルは敵と味方の判別がつかなかった。
「ギャアアアアア?!」×33(仲間含む)
──数十分後。アルコール分解能は高かったらしく、ドンメルの酔いは醒めた。
「……何が起きたの?」
先ほどまでのお祭りの光景はない。解体作業の工事現場や採掘場のようだ。岩が大量に山のように積み上げられていて、そこから翼とかトサカとか尻尾とかヒヅメが飛びだしている。
……ヒヅメ?
「ポ、ポニータ!」
 よく見ると、黒い耳や炎のついた尻尾も飛び出していた。埋まってる。慌ててドンメルはみんなを掘り出したのだった。
「死ぬかと思ったぜ……」
「走馬灯が見えました……」
「オイラ依頼者なのに……」
 リザードさんとポニータとカイはぐったりした。
「誰がこんな酷いことを!」
「「「えっ」」」
ドンメルは憤慨した。酔うと記憶が飛ぶドンメルはまさか自分のしたことだとは思っていないのだ。
「あたしがそいつをとっちめてやる! 誰なんです?」
「ねぇ、ドンメル。この世には知らない方がいいこともあるんだよ……」
「酒はオトナになってからだな……」
「あはは……」
カイは乾いた笑いを漏らすことしか出来なかった。
「ひいっ」「…あの、その」「やめっ……反省しましたからっ」「許してっ」
掘り出されたホーホーたちはドンメルに怯えていた。もう悪いことはしなさそうなのでカイは今回のことは被害届を出さず水に流すことにした。
「ご迷惑をお掛けしました。これからは節度を持った教団を目指しますので……」
 ヨルノズクが頭を下げた。改心が早いのはいいことだ。ドンメルに対するトラウマは刻まれただろうが。
「もうイケニエなんてやめろよな!」
そのまま踵を返して去ろうとしたカイだったが──
「お待ち下さい! 目覚まし時計をお忘れですぞ!」
「ギクッ! いやいいんで!」
「いえ、これはアナタの」
「あ、あげるから!」
「いいえ、我ら時間は本能で分かるので」
「もう嫌だぁぁああ!」
「お待ち下さぁあい!」
 すっかり目覚まし時計嫌いを悪化させたカイは走り出した。そしてダンジョンの片隅で不毛な追いかけっこが始まった。






お酒はオトナになってから!
じげんのとうの当て字が時元ですがわざとです。