かえるとかたつむりとこいぬのしっぽ(よん)


〜女神様のおかね事情〜
 
 
 神様は自分の星を守り、命を育てる事がお仕事です。もちろんこの星の女神様もです。
 男の子しかいない小さな星の女神様ですが、少し前まではこの星ではたくさんの人間が暮らしていたのですよ。人間を育てるのはとても難しくて、ちょっぴり目を離した隙に滅亡していましたが、女神様はへこたれませんでした。
 こうして小さな星には新しい生命が芽吹き……女神様は『びんぼう』になりました。
 世界だってタダじゃ作れないのです。
 生命創造にもおかねはかかるのです。
 最初から世界を作り直すとなれば、莫大なおかねがかかるのです。幸いなことに女神様には貯金が少しあったので今までは何とかなったのですが……。女神様は通帳の残高を見て涙目になりました。
「コットがない……私死んじゃう」
 コット、とはおかねの単位です。神様だってコットがないと生きていけません。
「コットって何なの?」
 いちごジャムを塗ったトーストをかじりながら、男の子は訊ねました。
「あ、話してなかったっけ。1日1信仰1コットって言ってね、人が神様を信仰する力のことよ。少しだけだと神様が生きていくのも精一杯なのよ。生きるだけで1日千コットはかかるもの……はぁ」
 貯金は減る一方です。
「だから早く女の子を作ってうめよふやせよちにみちよってね」
「そう言われたって」
 女の子をつくるための材料はまだまだ足りません。毎日色んなところに出かけてすてきなものを集めてもまだまだ『いっぱい』には程遠いのでした。
 女神様はぼやきます。
「おかね借りるしかないかなぁ……」
 こうして女神様の自転車操業借金生活が幕を空けるのですが、男の子には関係ないことです……そう思いたかったのですが。
「うわぁあん、利子が払えなくて星ごと差し押さえらそうだよぉ><」
「えっ」
 女神様が担保にできるものは星くらいしかありません。借金を返せなければ星は競売にかけられてしまうでしょう。
「ちょっと返済先延ばし交渉手伝って!」
 女神様は男の子を抱えました。
「えっ、ええ。ちょまっ!」
 こうして男の子はこの小さな世界で初めて宇宙にいった男の子になりました。ずっとずっと昔のことです。ええ、歴史書に乗ってないことは『なかったこと』になりますから、現代では宇宙に行ったのはアポロが最初だと伝わっていますね。だけど本当は違うのですよ。
 宇宙には沢山の星と沢山の神様がいます。女神様のようにたったひとりで世界をつくる神様もいれば、夫婦の神様も、家族の神様もいます。人間みたいな形をしていたり、『光のかたまり』だったり、動物だったり、神様も色々いるのです。色んな神様の姿が伝わっているのはこのせいなのですよ。
 男の子と女神様は『神様の星』に到着しました。金色の神様が住む神様だけの星です。色んな神様が買い物や休暇に訪れています。
 強制的に連れてこられた男の子は、流石に神様オーラに臆してしまい女神様の陰にかくれて辺りをちらちら見ています。
「女神ちゃん、久しぶり!」
 ちゃらい男の神様が女神様に声をかけました。男の子に気づいて頭を撫で回します。
「へぇ、これ君のとこの人間? 造り直したんだってね」
「このひとだれ?」
「ひとじゃないよ、神だよ。俺はゼウス。宜しくな、女神の子供ちゃん」
「アナタは相変わらず若作りですね…」
「この方が最近はモテるの。女神ちゃん、何しに来たの? 暇なら一緒に飲まない?」
「ごめんねー、持ち合わせがないのー」
 女神様は腰と尻を撫でようと伸ばされた腕を避けながら答えます。
「あまり遊び過ぎてると刺されますよ」
「もう何度も刺された(どや」
 だめだ、この神様。ゼウスと別れた女神様と男の子は目的地にやってきました。
「神様金融、通称かみきんよ」
 や○きんの間違いではありません。
「女神さん、今日こそ利子を払って頂きますよ

 中に入るとすぐに髭を蓄えた偉そうな神様が女神様にじりじりと詰め寄ってきました。女神様は後ずさりをします。
「その……ええとこれを担保にするんでもうちょっと待って下さい、お願いします」 
「へっ」
 女神様が指差したのは男の子です。
「君のところの人間か……。ふむ、ならば1ヶ月待ってやろう」
「えっ」
「ありがとうございます! じゃあ頑張ってね、私の子供!」
「ええええええ!?」
 女神様は男の子を置いていきました。むなしく扉が閉まります。
 そして男の子は全て悟りました。
「最初っから僕を人質にするのが目的かぁぁあ! このだめ女神ぃぃい!!」