ポケモン小説一本勝負
ポケダン版深夜の文字書き一本勝負
(最近ブログしなさすぎてしまいかた忘れた)
〜しとしとぴちょん〜
「梅雨なんか滅びろーー!」
「じめじめなんて消えちまえー!」
毛皮が乾かず、お出かけもできず、秘蔵のクッキーはしけり、ケーキはカビてしまい。
とうとう耐えきれなくなって彼女は叫んだ。
「にほんばれ!!!」
探検隊『ふわもこ』を君は知っているだろうか。そこそこランクは高いが特に目立った活躍も目立った経歴もなく知名度はないので知っていなくてもおかしくはない。是非この機会に覚えて頂きたい。
ふわもこはミミロルのミミをリーダーとした中堅探検隊である。メンバーは他にデンリュウのココとワタッコのフウであり、三匹とも♀である。
その『ふわもこ』のミミは片手を梅雨空に突き出してにほんばれを繰り出した。雨雲は散り太陽が顔を覗かせる。広がるのは爽やかな初夏の青空である。
しかしミミは浮かない顔のままだ。
確かに晴れたーーただし5ターンだけ。
ぽつり、ぽつりと雨粒が落ちからっとした空気はじめじめに押しつぶされてしまう。
ミミロルのふわもこした毛が湿気を吸ってじめじめする。ミミは耳をぷるぷるさせて、すぅ、と湿気200パーセントの空気をたっぷり肺に吸い込んでーー叫んだ。
「梅雨なんか嫌いだぁぁあああ!」
それは近隣住ポケモンを気絶させるほどの声だった。ビリビリと空気は震え、バタバタと泡を吹いた鳥ポケモンたちが墜落する。
ドカドカと足音がこちらに向かい。
「うるさぁぁい!」
スパァン! とミミはデンリュウのココに炎のパンチで吹っ飛ばされた。頭にたんこぶを作ったミミが近隣住ポケモンたちに菓子折りを配って回ることになるのだが、それはまた別の話である。
ところで。
梅雨の原因を君は知っているだろうか。
梅雨前線?
なるほど。
季節風? 地球の公転?
そんな見方もあるかもしれないね。
ありとあらゆる科学的な解釈は時に完膚なきまでに敗北する。科学なんて所詮分からないことに法則を見つけだそうとしているだけだ。
その科学的な解釈は正しい事も多いが、誤っていることもあるかもしれない。
この世界において陸地はマントルがプレートを押し上げたんじゃない、グラードンが持ち上げたのだから。
同じように梅雨をもたらしてるのは……
「べぐち!」
はるか上空の雲の上でのぶといくしゃみがひとつ。つられて、ぶわ、と雨が激しくなる。
「どうしたんだ? 風邪か?」
同僚がティッシュを差し出した。
ちん、と彼は鼻をかむ。おっさんなので非常に目に麗しくない動作である。
「ありがとう………」
「汚!」
トルネロスがかんだ後のティッシュを差し出してきたのでボルトロスはトルネロスの頭を手刀でスパァンとはたいた。つられて、ぴしゃん、と雷がひとつ落ちる。
トルネロスとボルトロスである。元来彼らはこの大陸にはいないポケモンである。それが大きな旅行用カバンを背負って飛んでいる。
使用済みティッシュを焼き捨ててオッサンたちはため息をつく。
「この時給が一番憂鬱だ……」
トルネロスは弱音を吐いた。
「仕方ないだろう、お役目だ」
「それは理解しているが、何故疎まれなくてはならんのだ!!」
雨風はつられてびゅうと酷くなる。
「我らの役目は水無月に雨風を吹かせ地に水を与えることだ! なのに何故下界のポケモンは『梅雨なんか滅びろ!』とか言うのだ!」
「それには同意するが、梅雨を嫌うポケモンだけではないだろう。水タイプや草タイプは喜んでいるだろう」
ボルトロスがフォローするも、トルネロスは被りを振るばかりだ。
「最近のポケモンは駄目だ、草タイプですら『太陽下さい』とか言う」
「落ち着け…」
(あ、やばい。トルネロスが鬱だ。今度長い休暇を与えて貰うようにランドロス様に頼もう………)
「梅雨なんか嫌いだぁあ!」
ボルトロスの必死のフォローを見事に台無しにしやがった声が空まで響いたのは次の瞬間である。雲の切れ間から見えるのはミミロルの姿である。
ボルトロスは同僚の姿を恐る恐る伺い。
次の瞬間、ひっ、となった。
「……トルネ…ロス?」
「………もうやめる」
「へ?」
「もうやめてやる!!!」
「ちょ、ちょっと落ちつ……」
不毛なおっさん同士の追いかけっこが始まった。こうして今年の梅雨は例年よりも荒れに荒れまくることとなり、何も知らないポケモンたちは、異常気象に首を傾げるのでした。
教訓:トルネロスは豆腐メンタル