フレイム先行配信1話『throw a bomb-seed』

開拓編がまだまだ長そうなので……先にアフロ編をどうぞ。
ただし時系列的には開拓編の後になります。
 
 
 
 
今日は大変な一日だった。
こんなときに限ってリーダーが留守で困ったよ。だけど、土産話にはなるかもしれない。
ある探検隊から始まった馬鹿騒ぎ。その結末を知るのはボクだけだろう。
(あるポケモンの日記から抜粋)


◇take1:フレイムがトラブルの種を投げたら→リア充が爆発しました。

フレイムは仕事をしていた。キラキラ山脈(ピカピカ山脈とも呼ばれる)は電気タイプポケモンが多く住むダンジョンだ。
 乾燥した気候で乾いた黄色の草原が広がっている。雷の多い土地で、土壌にはある鉱物が多く含まれており雷が落ちると電流を通してピカピカキラキラと草原は黄金色にまたたくのだ。
「っ!」
探検隊バッグの中を漁っていたポニータが小さな声を上げた。どうやら静電気で痺れたらしい。腕をゆらゆらと降る。
「うう、ぴりぴりしますね」
「凄く乾燥してますからね」
毛のないマダツボミには分からないが、ポニータのたてがみもドンメルの頭の毛も纏まらずあっちこっち跳ねている。
三匹がダンジョンを探索していると──メリープが現れた。敵だ。マダツボミたちは身構える。
「ちっくしょー!」
 …おや? ダンジョンでは凶暴化し理性を失ったポケモンが多いのだが、彼は機嫌は悪いようだが理性はある。
「姉ちゃんのアホー!! 黙って進化するなんて。探検隊なんて危ないこともさせるだけじゃないなんて! あのミミロルなんか豆腐の角に頭ぶつけてしまえばいいんだ! ってことで、このムシャクシャを晴らすため、てめぇらを倒す!」
 なんか言って突進してきた。
「すみません、話が全く見えないのですがっ…!」
「なによ、この理不尽な八つ当たり!」
「シスコンだね!」
向かってきたものは仕方ない。とりあえずフレイムは三匹でメリープ囲んで鉄拳制裁という名の袋叩きをした。ダンジョン内なのでセーフである。メリープは飛びかかってきたわりにお話にならなかった。弱すぎたのだ。
 そんなメリープをボコボコにしている最中、ポニータはうっかりスイッチを踏んだ。ぐるぐるスイッチだ。ぐーるぐると回転して混乱する。
「いやしの種は……」
目を回したポニータはバッグから種を取り出した。しかし、それは『爆裂の種』だった。混乱していて気づかないまま、マダツボミたちの方向を向いて食べようとするのだから堪らない。
「つるのむち!」
 マダツボミは鞭で爆裂の種をポニータの手から叩き飛ばした。弾き飛ばされた爆裂の種は水路を超えて飛んでいく。
 ポニータの混乱が解けた。
「──はっ、私は今なんて事を! すみません!」
「これからは気をつけて下さいよ……」
「いわおとし!」
その間にドンメルがさっくりメリープにトドメを刺した。そしてフレイムは先に進む。
 今日の依頼はここに住むあるポケモンに生活費や食料を届けることだった。奥地に着いたフレイムはテントの家を見つけ呼びかけた。だが返事がない。留守なのだろうか。近所の他の住民に尋ねることにした。気さくなおっちゃんによると──
「このうちに今住んでるのは一匹だけだな。何という名前だったかな。ジョンソン……ジョーシン……ちょっと口の悪いメリープのボウズなんだが、おじさん忘れちゃったよ」
 メリープの男の子。三匹は凄く嫌な予感がした。残念ながら、それは当たっている。
「ねぇ、リーダー。もしかして……」
後はみなまで言わなくても分かるだろう。
ここで話は変わるが。
 さっきも言ったがキラキラ山脈(ピカピカ山脈)は非常に乾燥した気候だ。そこに探検家が一匹。彼はブラッキーのゲッカ。リーダーは里帰り中。彼は一匹で仕事でピカピカ山脈に来ていた。彼の毛も静電気で逆立っていた。今から少し前、彼は同じフロアで騒ぐフレイムを見かけた。
(同業者か。騒がしいなぁ)
さっさと去ろうとゲッカは背を向けた。フレイムの方向から爆裂の種が飛んできたのは次の瞬間である。爆裂の種はゲッカの頭にぶつかってパーンと破裂した。
──そして、現在。
 ダメージはあまりなかった。ゴローンの石の方がダメージが大きいくらいだ。爆発で起きた煙は収まった。だけど、何だかゲッカは頭に違和感を感じた。ごわごわする。
ゲッカは恐る恐るダンジョンの水路の水面に姿を映し──叫ぶ羽目になった。
「なっなっ………何じゃこりゃあ──!!」
ゲッカの頭は見事にアフロヘアになっていた。
 
 
 
◇take2:→アフロで物価が高騰したら→トレジャータウン壊滅の危機がおきました。
 
キラキラ山脈の乾燥と爆裂のタネが見事にコラボレーションして創造されたゲッカの爆発アフロヘアーは水で濡らしたくらいじゃ直らなかった。
 一番の問題は仕事中ということだ。途中で帰るのは探検隊のポリシーに反する。依頼者はゲッカを待っているのだ。
 だからゲッカは頭にスカーフを巻きつけて、目立たないようこっそり仕事をすることした。今日の依頼は『道具を探して系だ』。依頼された道具を見つけて、逃げるように町へ戻ったが、ゲッカの大きなアフロは隠し切れなかくて不自然なスカーフの膨らみをちらちらとポケモンたちが見ている。
「あのチーム覚えてろ!」
呪詛を吐く。文句の一つも言いたかったが、ゲッカがアフロに気づいた時にはマダツボミたちはとっくに上の階に行っていたのだ。
早く家に帰りたい。歩く速度を早める。その時、突風がぴゅんと吹いた。イタズラな風はスカートの代わりにスカーフを吹っ飛ばした。アフロが露わになる。
「うわぁああああ?!」
頭を抑えた。誰かに見られてないだろうか。ゲッカは周りを見渡した。笑われる。そう思っていたのだが。
「鬼だ! ナマハゲだ!」
「食われるぞ!」
「きゃああああ!」
怯えられ、逃げられた。
「……えっ。なんだこれ」
奇跡的な偶然だが今日ゲッカが首に巻いていたスカーフは虎柄だった。普段は黒いシフォンを着用しているのだが、今朝は見つからなかったのだ。
気を取り直して頭にしっかり布を巻きつけた。まるでインドのポケモンのようだ。ゲッカに仕事の依頼をしたのはトロピウスのロロだった。彼も変な頭をしているゲッカに長い首をちょっと曲げた。
「ありがとう!」
道具を受け取ってロロはにっこりする。一刻も早く帰りたくて、報酬を受け取ってゲッカは小走りになった。
家に帰って試行錯誤を繰り返し、頭が元に戻ったのは小一時間後だった。とても悪戦苦闘させられ、最後には毛を切った。ちょっと頭の毛が薄くなるがアフロよりマシだ。薄毛隠しに帽子を被って、ゲッカは昼食の買い出しに出かけた。
 そして、ゲッカは今一番ホットな噂を聞く羽目になる。
「鬼が出たんだって!」「マジかよ!」「なんでもポケモンを食べちゃうんでしょう」「どうすればいいんだ?」「リンゴの種を投げればいいらしい」「リンゴ?」
 話が大きくなってる上にとんでもないデマが流布していた。リンドのみとか豆っぽい木の実があるのに。もしや『リン』が同じだからごっちゃになったのだろうか。
 大騒ぎだがゲッカには『(鬼は)ボクだよ』とは言い出すことなど恥ずかしくて出来やしない。
 そんな中、全ての元凶ポニータが帰ってきた。騙されやすい流されやすい色々と残念なポニータは噂を聞いて『リンゴを準備しなくちゃ』と大慌てだ。文句を言ってやりたかったが、アフロのことがバレるのも嫌だった。ゲッカはとりあえずその後ろ姿をギリギリと睨む。
カクレオン(兄)さんリンゴ下さい! ……あれ、防御力が下がってる気がする」
ポニータはぶるっとした。
 デマは加速度的に広がり、リンゴの価格は高騰した。掲示板には『リンゴが欲しい』という依頼が大量に載っている。
リンゴ、大きなリンゴ、セカイイチ──リンゴ系は全て買い占められた。オイルショックならぬリンゴショックである。
さて、セカイイチといえばあのポケモンである。彼は気が抜ける歌を歌いながらのんびりお散歩していた。
セカイイチセカイイチ♪ アイラブユー♪ セカイイチセカイイチ♪ おいしいな♪ るんるん♪」(プクリンのテーマ)
 我らが親方である。
カクレオン兄弟の店はセカイイチをめったに入荷しない。リンゴの森からとってきたり、依頼で手に入れたものを備蓄したり、他の探検隊と物々交換したり、ペラップは見えないところで非常に苦労しているのだ。
ずっとプクリンギルドの地下二階で仕事していた彼はこの騒動をまだ知らなかった。
 セカイイチの備蓄はもうないのに、予定していた業者が入荷してくれないのを。リンゴの森のリンゴも全てとりつくされたことを。普段なぁなぁでピンチを切り抜けていたが、一切れすら手に入らなかった時──プクリンがどうなるか。
 トレジャータウンの滅亡の危機が起きていることを当事者を含め未だ誰も知るものはいなかった。
 
 
 
 
 
 

こういうカオスな話は書いていて楽しいです(