フレイム25話『なんてったってレボリューション』

やっと半分!(仮)(※現在フレイムは全50話の予定)
次から起承転結の『転』に入ります。
 


 トレジャータウン近くの海岸に船が停泊している。帆にはホエルコ印。動力をポケモンに頼らない帆船で、ホエルオシップのリプル号とは大きく異なっているが、これも海運隊の一種だ。
「ここがトレジャータウンか。マダツボミは元気かな!」
 勢いよくラフレシアが船から陸に降り立った。彼に続いて船旅を一緒に過ごした探検隊も岸に降りてくる。
 ワクワクを抑えきれないラフレシアの様子は同乗者には微笑ましく見えた。ギャロップが去っていくラフレシアに声をかける。
「さよなら、またな! 約束、守れたらいいな!」
「ありがとう! 探検隊になってきます!」
 ギャロップは手を降ってラフレシアを見送った。ギャロップの探検隊の仲間たちはそんな彼に呆れている。
「アナタっていつもこうね」
 クールに言ったのはウィンディだ。
「おひとよしは死んでも治らないんじゃないか?」
 からかうような軽い調子でバシャーモが言った。
コミュ力が高いと言えよ。そういえば、あの子たちは探検隊になったのかな。俺たちに憧れてたポニータドンメル
「ああ、あなたが勝手に地図の欠片をあげちゃった子ね」
「ただの地図じゃないスッゲェ貴重品だってのに」
「リーダーの私に断りなく貴重アイテムを渡すなんて」
 ウィンディとバシャーモに言われっ放しだ。真実が真実なだけに反論も出来ずギャロップは後ずさりする。
「あれ、懐かしく思い出話するつもりが……」
 
 
 

「だれしも生き物は3つの物から構成されている。ここにある肉体、喜怒哀楽を感じる精神、己に過去を刻む記憶。力は肉体に宿り、勇気は精神から産まれ、知恵は記憶が造りだす。だが、力は物を破壊し、無謀な勇気は自らを滅ぼし、誤った知恵は誤解を生む──ああ、なんて哀しいことだ」
 三枚目は厨二台詞を仁王立ちして言っている。痛い。ココは目を塞ぎたくなった。
「ミミはどうしたの?」
「我は声帯を操作しているだけで意識を抑え込んではいな……ねぇ! スゴいねコレ! 力が沸いてくるよ! うぉぉおおお〜っ!」
 途中でミミになった。瞳が黒に戻っている。
「これなら、あの魅惑のポケモンを捕まえられるかもしれないから行ってくる──ちょっと、ココ! なんで耳掴むのさ! もしかして嫉妬? 大丈夫、ミミが一番愛してるのはココ(の毛)だよ!」
 歪みすぎて歪みない普段のミミだった。ミミを掴んだまま、ココはゆっくり話しかける。
「地図は声しか操作してないのよね。つまり、岩落としたのも、あんな顔したのも、変なポーズしたのも……ミミなの?」
 ミミは目を逸らした。
「アドリブに対応できるかで真の女優になれるか決まるんだからね! ミミってなんて恐ろしい子っ!」
「凄くないから! 死傷者が出たらどうするのよ! あとガ○スの仮面に謝れ!」
 とりあえずココはミミをそのへんに居たハリーセンポケモン)でぶん殴った。
 その頃、ダンジョンでは。
「さすがに寂しいよぉ……」
 ポニータはフェルを見失ってぼっちになっていた。
 
 
 

 先走るとやられるというフラグをたてたグルルはさくっとやられていた。
「てめぇの都合で戦闘シーン省いただけだろ……げふっ」
 グルルは気絶する前にいらないことを言い残した。
「何ですか、突然襲ってきて!」
 ぷんぷん、と黄緑色の小柄なポケモンが膨れている。
「なぁんだ」
 そこにのんびりとした声。
シェイミちゃんか」
「新手?!」
 シェイミグラエナのフェルを睨みつけた。
「いや、俺は人畜無害だ。実はかくかくしかじかで」
 フェルはここまでの経緯を説明した。シェイミは真っ青になった。
「うっ、うわぁ……」
「ということなんだけど、どうする? 捕まる?」
 シェイミはブンブン頭を横に振った。冗談じゃない。
「私はこの時期に生える薬草を取りに来てるだけなんですよ! 毎年、追いかけてくるミミロルがいるから、フォルムチェンジして逃げてたのがここまで大事になるなんて……」
「うーん。気持ちは分かるが……」
 フェルは暫く考えていたが、やがて頭の上で白熱電球がピカッと光った。
「手はあるぞ」
「本当ですか?!」
「ただし、今から俺がやることは誰にも言わないこと。バレたら肩身が狭いからな」
 背に腹は代えられない。シェイミはこくんと頷いた。グラエナのフェルは胸を叩いた。
「じゃあ、任せてくれ」
 そんな話を意識が戻っていたグルルが聞いていたことにフェルは気づかなかった。
 
 
 

 ポニータは無事にマダツボミと山頂で会うことができた。はぐれたフェルはいない。
「フェルさんが戦っているところは見たことないですね………強いんでしょうか?」
「分かりませんが……きっと大丈夫でしょう」
 フレイムとフェルは中間地点まで別行動だった。中間地点に自力で辿り着いていることから考えて弱くはないだろう。
「ところで目的のポケモンはいましたか?」
「いえ、全然」
 そのころ、ミミロルのミミは山頂から少し離れた場所でポケモンを探し回っていた。
「見つからないなぁ」
 がさっ。
「あっ!」
 あ、シェイミを抱えたグラエナのフェルがとびだしきた! ミミはどうする?▼
→もふる もふる
 もふる もふる
 選択肢の内容は全て同じだ。
「いたぁああああ!」
 ミミは飛びかかった。シェイミを抱きしめてフェルは飛び退いた。高レベル×アドレナリン×三枚目パワーで地面にクレーターができた。
「ちょっと待って、死ぬこれ死ぬから! エイ! 止めてくれ!」
 ぴたり、とミミの動きが止まった。瞳が金色になる。
「……その名前、誰から聞いた?」
 いつまで探しても目的のポケモンは見つからず、他の探検隊たちは諦めて帰り始めた。さすがに暗くなってきたので(フェルが行方不明なのはいつものことなので心配していない)マダツボミたちも帰ろうか悩み始めた。地図は手に入れたいが、今日はもう無理だろう。
 後ろ髪を引かれつつスタート地点に戻ると、ココとフウも居残っていた。ミミがいないそうだ。もう東の空が闇に染まっている。
「探すのお手伝いしましょうか?」
「いや、ミミなら大丈夫よ。少し待ってみるわ」
 10分程待っていると、フェルが背中にミミを乗せてやってきた。
「たっだいまー」
「ぐ〜……ふわもこふわもこひゃっほほい」
 歪みない寝言だ。よだれをたらして眠ってやがる。
「何してたんですか」
「何とかなった」
 マダツボミの質問に答えになってない言葉を返した。
「『もう追いかけまわさない』と約束して貰った。これでシェイミちゃんも安泰だろう」
 誰だ、それ。
「ふぁあ〜」
 ミミが目を開いて大きく背伸びをした。
「よく寝た。ただいま、ココ! フウ!」
「どうしてこんなに遅く…」
「あのね! ひゃっほほいもっふもふパラダイスで、えへへへへしてたら、すやすや!」
「他のポケモンに迷惑をかけた挙げ句に寝落ちしたのね?」
「よくわかるね!」
「何年付き合ってると思うのよちょっと心配したアタシが馬鹿だった……」
「まぁまぁ、がんばれ!」
「誰のせいよ!」
 はたいたがミミのステータスはバグっているためちっとも痛そうにしない。ココは堪忍袋の緒が切れた音を聞いた。
「いい加減に──」
ココの体が光り輪郭がぼんやりしていく。が大きくなり、ピンクの肌がゆっくり黄色に輝いていく──進化だ。ミミの瞳が驚愕に見開かれた。その手に炎が集まっていく。
「しろぉ!!」
モココならぬデンリュウのココは覚えたての技『炎のパンチ』をミミに叩き込んだ。ミミは燃えながら遠くまで吹っ飛んでいった。『良質の毛皮が〜』と滝のように泣きながら。涙で虹がかかった。自業自得だ。ちょっと可哀想に思えてポニータは小さく合唱した。
「すげぇ……」
 そんなココの姿に偶然居残ってたスバメは瞳を輝かせた。やや天然な彼はこの後チームふわもこに弟子入りするのだが、それはフレイムとは違う話だ。
「迷惑をかけてごめんね」
ココは瀕死状態のミミの頭をぞんざいに掴んで斜め75度のお辞儀をさせた。
意識はある。瀕死なのは体力ではなく精神だった。死んだ魚のような濁った目をしてブツブツ呟いている。
「ココがつるんとしちゃったよぉ……手触りのいい生きた最高級品が……」
ココは右手をあげて先をくいっと曲げた。ワタッコのフウが呼ばれてやってきた。ココはそのフウを掴んでミミに握らせた。ミミはフウの綿をにぎにぎしてパフパフして顔をうずめた。オサワリできる店で中年親父がやるような事だが、絵的に可愛いミミロルなのでセーフだ。ちょっと目に生気が戻った。
「あー、一級品のふわふわもこもこだぁ……でもココの最高級品じゃないんだよなぁ……もふもふもふもふ……というか羊が竜になるなんてビックリ進化にも程があるよ……ラッコがアシカになるようなものじゃないか……もふもふもふ」
「ミジュ○ルをディスらない! というか、パールルの方が仰天進化じゃない」
 ツッコミつつミミのおもりをフウに任せて、ココはミミの毛の中から地図を抜き取った。
「色々と迷惑かけたわね。連れてきてくれて助かった──お礼といっちゃあナンだけど、地図の欠片、ポスター見たけど、あなた達が必要なのよね」
「あ、ありがとうございます」
「いいのよ。ミミが持っててもトラブルの元になるだけだし。だけど、これは──」
ココが中二病三枚目のことを伝えようとした時、地図を受け取ったドンメルの瞳が金になった。ココに向けて口を塞ぐジェスチャーをする。
「これは面白い。″4枚″も揃うとは。見せて貰おうか、乗り越えれば扉は開く」
 ふっ、と金色が抜けた。
「……あれ、あたし変なこと言った気がする」
少しドンメルは混乱した。こうして、フレイムは地図の三枚目を手に入れたのだった。
喜ぶ彼らを後方の藪に潜んだグルルが覗いている。フェルをつけた彼は一部始終を見ていたが、だからこそ分からない。やたらテンション高く転げ回るミミがフェルの言われるがままに約束をした。あっさりと。
(ちょっと、キナくせぇな)
その視線に気づかずにフレイムとふわもことフェルは一緒に帰路についた。フェルはいつもの調子で話している。
「腹が減ったな、何か食べたいものあるか?」
「わたあめ!」
「あんたは黙れ!」



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