かえるとかたつむりとこいぬのしっぽ(いち)

〜男の子の作り方〜
鍋には雨のひとさじぶん
緑のかえるでスープをとろう
煮立ったころにかたつむり
仕上げにこいぬのしっぽをいれて
三日三晩強火で煮込む


かえるとかたつむりとこいぬのしっぽ(いち)
 
 
「三日三晩煮込むその前に
 緑のかえるでスープをとろう
 さんさじ水とカエルをいれて
 ぐつぐつ言ったらかたつむり
 仕上げに子犬の尾を添えて♪」
 女神様は世界の鍋でかえるとかたつむりとこいぬのしっぽを鼻歌まじりに煮込みました。尻尾を切られた犬はきゃいんと鳴いて逃げていきました。実はコーギーの尻尾を切るのは女神様が始めた習慣だったのです。三日三晩煮込んで、だけどうっかりものの女神様はほんのちょっぴり間違えてしまっていたのです。
 
◇ 
 野原の真ん中で男の子が倒れています。
「み、みずぅ……」
 身体がからからです。息も苦しくなってきました。真っ青な顔で男の子はさけびました。
「馬鹿女神様なんとかしろ!」
「誰が馬鹿よ、想像主に向かって」
「そうでも象でもいいから水!」
 女神様は近くの清流から水を汲んで、男の子に渡しました。男の子は水に満たされた桶に顔を突っ込むようにして水にむしゃぶりつきました。水を飲み干して、はぁ、と息をつきます。
「このクソ女神!」
 そして桶をぶん投げました。
 女神様はひょいと桶を避けました。
「危ないじゃない当たったらどうするのよ」
「当てようとしたんだよ……」
 世界でたったひとりの男の子は毒を吐きました。おしりに生えているこいぬのしっぽはくるん、と丸まりました。
 時は少し前。
 女神様は男の子を作りました。
 かえるとかたつむりとこいぬのしっぽ。でもほんの少しミスをしてしまいました。材料の配合がずれてしまって。
「そんなに怒ることないじゃない。ちょっぴりかえるとかたつむりとこいぬが混じっただけなのに」
「大問題だよ!」
 こいぬが混じって、男の子には子犬の尻尾が生えていました。かわいい尻尾です。
 それだけならまだしも。
 かえるが混じったせいで、男の子は乾燥すると窒素してしまいます。つまりかえるの皮膚呼吸まで受け継いでしまったのですね。
 そして、かたつむりが混じったせいで、男の子は乾燥すると干からびてしまいます。かたつむりのように保水力がありません。
「ちゃんと作り直してよ!」
 と男の子は女神様に抗議したのですが。
「作り直すと自我まで消えるよ?」
「やっぱりいいです」
 どうしようもありませんでした。
(犬の嗅覚、かえるの跳躍力、かたつむりの再生力じゃなくて悪いところばかり)
 男の子は目尻に涙を浮かべました。鼻もよくないし、走り幅跳びはせいぜい2メートルだし、いいとこなんてありゃしない。
 ひとりぼっちの男の子がいじけている姿を見て女神様は(きっとひとりなのが寂しいのね)とずれた解釈をしました。
「そろそろ女の子を作らなきゃ」
「…失敗しないでね」
「ところが材料が足りないの」
「買えばいいじゃん」
「買えるものでもないのよ。だって」
 
 女の子はおさとうとすぱいすとすてきなものいっぱいで出来ている。
 
「すてきなものいっぱい探して欲しいの」
「…僕が?」
「君以外誰がいるのよ」
 突然の無茶振りでした。
 男の子は目をぱちくりさせます。
「おさとうとすぱいすは私が作れるけど、『すてきなもの』が何なのか分かんないの。女の子って難しいから、だから探すお手伝いをして欲しいなって」
「かみぞんで注文できないの?」
「コットが足りないし……そもそも人間は男女セット販売だから……」
 前回も言いましたがコットとは神様が使うお金です。
「君、あぶれるよ?」
「……。分かったよ。世界の“すてきだと思うもの“を集めてくれればいいんだね」
「ありがとう、話が分かるぅ↑」
「……」
 男の子はやっぱり止めたい気分になりましたが、このままだと永遠にぼっちになる気がしたのでやはりやるしかないのでした。
「でも大変だろうから、便利な道具をあげる。じゃんじゃじゃーん、三種の神器ー」
 女神様は『帽子』と『リュック』と『くつ』をどこからともなく取り出しました。
「この帽子を被ると動物の声が分かるの。このリュックはたくさんものが入るから水不足で倒れなくて済むわ」
「帽子がかえる型なのは?」
「かわいいから」
「リュックがかたつむりのカラ型なのは?」
「仕様」
「この靴は見た目は普通みたいだけど……」
「まぁ裸足だと危ないから」
「ちょ、どこが神器?!」
 
 こうして、かえるとかたつむりとこいぬのしっぽで出来た男の子は、すてきなものをいっぱい探す冒険に出かけました。