フレイム28話『一つ先へと進む』

とりあえず眠いです。
シリアスキラー(シリアルキラーではなく空気破壊的な意味で)
 
 

「お嬢ちゃんたち、どうしたんだ。遅かったじゃないか」
リザードさんは帰りが遅くなったポニータたちのことを心配していたらしい。。
「心配かけてごめんなさい。古い知り合いのガーディアンに会ったんですよ」
「ガーディアン、確か古代遺跡の発掘、保存、史跡の復元に名のある……。そんな有名な探検隊と知り合いだなんてお嬢ちゃんたち侮れないね! 今度ネイアさん紹介してくれない?」
「ネイアさん彼氏いますよ」
「ええっ!」
 ガーディアンがこの大陸に来たのは、ギャロップのファイによると『世界樹と呼ばれる大木が生えているという情報を掴んだんで木探しをしようと思って』ということだそうだ。
 久しぶりに会えて嬉しいはずなのに、ポニータの気持ちは沈んでいた。他の探検隊の様子を直視できなくて少し辛い。
(わたし達は、前に進まなきゃならないのに)
 起きてしまったことは仕方ないのだ。険しい上り坂もいつか下り坂になる。進むことを止めたらそこまでだ。
 だけど簡単には割り切れなくてポニータがもやもやした日々を送っていたある日。
 ポニータラフレシアのリーフと道端で出逢った。ポニータは恐る恐るリーフに挨拶する。
「こ、こんにちわ」
「へぇ、君たちが……ふむふむ」
リーフはじろじろポニータを不躾に眺めてくる。マダツボミの件はリーフの責任ではないが、少しばかり反感を持って少し険しい目つきをしてしまう。
「……マダツボミさんは元気ですか?」
 その言葉にリーフは不審そうな顔になったがすぐに気づいた。
(そうか、知らないんだね。ボクが断られたことを)
 マダツボミとリーフが探検隊をしていると思っているのだろう。だけど真実の代わりにリーフは花のような笑顔で言うのだ。
「元気だよ。この前二匹で探検して驚いたよ。凄く息が合うんだ。やっぱり草ポケモンには草ポケモンが一番だね」
 ポニータが一番嫌がる台詞のセレクトだ。そう、実はリーフは腹黒だった。
「積もる話もあるし、君たちをうちに招待したいんだけど、マダツボミが怯えてしまうね。まだ炎に慣れてないみたいだから。どうしよっか?」
 精神の急所にあたった!効果は抜群だ!
 腹黒さを表面には一切見せずリーフは笑顔だ。
「そ、そうですか。そうですよね。では失礼します」
 ヨロヨロと力なく去っていくポニータの後ろ姿を見送って、リーフは探検隊バッグをかけ直した。先ほど探検隊に登録してきたのだ──リーフだけで。
「ちょっとした意地悪じゃないか。迷ってる時点で答はもう決まってるんだよ。でも、それじゃ悔しいじゃないか」
 彼はどこかにいる親友に向けてぼやいた。
さて。リザードさんの家に帰ったポニータの落ち込みようは半端なかった。
ポニータ、大丈夫?」
「大丈夫だよ、大丈夫。あはははは」
全然大丈夫じゃなさそうだった。
「フレイム、ガーディアン、世界樹の伝説──」
 そんなポニータたちを遠くから見ているポケモンがいた。ぶつぶつ呟きながら前足の指を一本ずつ折り曲げる。
「上手く行けば……そうだ、一石二鳥としゃれ込もうか」
 その翌日、トレジャータウンがニュースで沸き立った。
「どうしたんですか! ファイさん、ファイさん!」
 ポニータギャロップのファイをガクガク揺さぶった。
「生きてる、生きてるからやめて傷に響くから」
 包帯でぐるぐる巻きにされてミイラ状態になったファイがいた。怪我の様子をラッキーが診察している。彼女の本業は卵の孵化だが、多少の怪我の診察はできるようだ。
「打撲と脱臼と後左足の骨折。二週間は安静にすること。特にダンジョンには絶対に行っちゃ駄目ですからね」
 テキパキと包帯を剥されて足にギプスを嵌められる。
「二週間も──それじゃあ、世界樹に間に合わないじゃないか、なんとかならない?」
「なりません」
 がっくりとファイは肩を落とした。ドンメルが尋ねる。
「何があったんですか?」
「うーん、俺がひとりで探索の準備をしていた時なんだけど、誰かに突然背後から襲われたんだ。暫くは意識があったんだけど…」
『馬鹿、やりすぎだ!』
『殺したりはしない』
『そんな問題じゃないぞ。足止めだって言ったろ!』
「……って誰かの話し声が聞こえたんだ」
「犯罪じゃないですか!」
「それが怪我させちゃったのが怖かったみたいで、目が覚めたら包帯でぐるぐる巻きにされてトレジャータウンにいたんだよ。何も盗まれてないどころか慰謝料まで置いてあった」
 のほほんとファイは言う。
「だから水に流そうかと」
「駄目よ」「駄目だろ、このオヒトヨシ」
 ウィンディのネイアとバシャーモのブレイズがファイの頭をはたいた。
「というか、もう保安所に被害届出したから」
「可哀想じゃないか」
「一番可哀想なのは私達よ。数ヶ月がかりでの調査と準備が全てパァじゃない」
「うっ、ごめん」
「あなたのせいじゃないわよ」
 ウィンディのネイアは嘆息した。世界樹の調査は来年に持ち越しになるだろう。そんなネイアの視界にはポニータたちの姿が。ネイアは閃いた。
「そうだ。ふたり共、世界樹伝説に興味ない? 一年に一度、ちょうど一週間後に世界樹への道が開かれるそうなのよ」
 ポニータたちは目をパチクリさせた。
「私達はもう出来ないし、貴女達に世界樹の調査を代わりにお願いできないかしら?」
「調査?」
「そんなに難しいものでもないわよ。見つけたら記録して欲しいの。大きさや樹齢、他には……あ、『透明な葉』はいらないのよ。できればサンプル欲しいけれど、もっと必要なポケモンがいるでしょうし、うちの馬鹿も寝てたら治るでしょうから。樹皮と葉と枝のサンプルを採取してくれたらいいの。ダメ元だけど挑戦してみない?」
 ネイアは一回でかなりの長さの台詞を言い切った。
「あ、あの……どうして私達に?」
「ここの探検隊で私達の知り合いは貴女達だけなのよ。プクリンとか実績ある探検家に頼むのって何だか癪じゃない?」
「そうそう。手柄がプクリンのものになるしな」
 バシャーモのブレイズがうんうん首を縦に振った。
「ほら、君たちなら『ガーディアンに託された後輩』だから俺達の面目が立つしね」
 ギプスをはめたギャロップのファイがのんびり言った。
「「身も蓋もないですね!」」 
 こんな流れで二匹は世界樹についての情報が書かれた紙を貰ったのだが。
「困ったな、どうしよう」
「それならどうして受け取ったのよ」
「興味がちょっと……リザードさんに話してみるけど……」
リザードさんには協力して居候させて貰ってるだけで、私達は探検隊じゃないんだ)
 リザードさんと探検し冒険するイメージは湧かない。いつかリザードさんに仲間が現れることをポニータはこっそり祈っているけれど、きっとその仲間は自分たちじゃないのだ。
 家に帰ると慌ただしくリザードさんが飛び出してきた。
「あ! ちょうど良かった。これから急ぎの用事があるんだ。留守番を頼んだよ」
「あ、はい」
 そしてリザードさんは出かけていった。
 リザードさんの姿が見えなくなってすぐに入れ替わるようにペリッパーが訪れた。
ドンメルさんとポニータさんにお手紙ですよ」
 二匹は首を傾げた。誰からだろう。差出主の名前は書かれていない。
「とりあえず見てみましょ」
ドンメルが封をきった。
《こんにちは。少し前お世話になった者です。ポニータさんとドンメルさんはここにいると聞いたので手紙を出させて頂きました。》
「誰かしら」
 ドンメルは思い返す。何匹か該当しそうなポケモンはいるが、そのどれかは分からない。
《どうしてもあなた方に助けて欲しいことがあるのです。急いで″新緑の古森″に来ていただきたいのです! 詳しいことは現地でお伝えします。お願いします!》
「これだけだと、どんな依頼なのか分からないわね」
「でも私達を必要としてるポケモンがいるんだ──行きましょう! 助けなきゃ!」
書き置きを残し、戸締まりをして二匹は出発した。
「待ち合わせ場所に誰もいないし何だったんだ? ただいま、お嬢さ……あれ、いない」
ぼやきながらリザードさんが帰ってきたのはポニータ達が出発したすぐあとだった。



新緑の古森。ちなみに『みどりのこもり』と読む。
雄大な大きな森──だったのだろう。今、生えてるのは低い若木ばかりだ。
ここに来てからなんか嫌な視線と空気を二匹は感じていた。住民のポケモンたちがポニータ達をちらっと見てはひそひそ話している。
「なんか嫌な雰囲気よね」
こつん。
「痛っ!」
石のつぶてが飛んできてポニータ達の頭に当たった。ポニータは飛んできた方向を見る。そこにはスボミーたちの姿があった。また2つほど石が飛んできてポニータは声を荒げた。
「何をするんですか!」
「わー、逃げろー! 燃やされるー!」
散り散りになって子供たちが逃げ出した。追いかけようとしたが──とにかく周りの視線が痛い。ここでは二匹は侵入者であり部外者なのだろう。ポニータはぐっと怒りをこらえた。
「早く依頼すませちゃおう」
早足になる。やがてポケモンたちもあまりいなくなった。待ち合わせ場所はそろそろだ。
その足が──止まった。
「「──あっ」」
「あなた達は!」
新緑の小森──かつて火事で焼けたマダツボミの故郷で二匹はマダツボミと鉢合わせた。
「どうし……うっ、ちょっとすみません」
マダツボミの顔がみるみる真っ青になったかと思うと木の陰に引っ込んだ。
「だっ、大丈夫ですか?」
「その、近づかなければ……」
「「「…………」」」
気まずい空気が流れた。最初に口を開いたのはマダツボミだった。
「ええと、あの時はごめんなさい、仲間じゃないって言ってしまって」
「いいんですよ、記憶喪失なんですから…」
積もる話は後にして、隠れた木にもたれかかってマダツボミポニータたちに尋ねた。
「──ところで、あなた達はどうしてここに?」
「依頼があったんですよ」
「依頼? こんな所に──」
バアアァァァン!
 ピカァァァン!
「アーハッハッハッハ!」
なんか謎の照明効果に照らされて謎のポケモンが高笑いしながら登場してきた。
「「「誰っ!?」」」