フレイム27話『振り出しにもどる』

記憶編の統一タイトルは『すごろく』でやろうかと。
『フェル』とか『リーフ』がブログ読者の名前と被っててビクビクする。べ、別に意識してないんだからね!(
相方の感想『主人公の扱いェ……』……そこは仕方ないよ!(オイ)
 
 
《直接会って、お話ができないのでこんな形で失礼します。私たち二匹は独立して探検隊をやることにします。今までお世話になりました。地図の欠片はマダツボミさんに託します。マダツボミさんは覚えていませんが、未知の大陸への手がかりとなる地図です。どうかリーフさんと夢を叶えて下さい。さようなら。PS.たまに手紙を出してもいいですか?》
 そんな書き置きだけ残っていた。最初から誰もいなかったかのようにマダツボミの家はひっそりとしている。
「──ごめんなさい」
マダツボミにとっては、突然未来にタイムスリップしたようにしか思えなかった。だから、精神的にはマダツボミは今のポニータと同じくらいだ。
「仲間だったのに、こんな形でしか話せないなんて。ちゃんと謝りたかった……酷いことを言ったから」
まだリーフへの返事は出来ていない。記憶を失う前なら断っただろう。フレイムに出会う1ヶ月前なら喜んで承けただろう。火事がなければリーフと探検隊になっていた筈だ。
でも、今は。
(火を見るだけで恐怖で体がすくんで動かなくなる。悪ければパニックを起こし、気絶しかねない。探検隊として失格だ)
リーフは気にしないと言ってくれているがマダツボミは暫く休業することを決めていた。
 入り口とポストに『休業中』という張り紙を張って、カバンをかけて外に出る。
「どっか行くのか?」
マダツボミが記憶喪失にされた事に責任を感じているのか世話をやいてくる居候のグラエナマダツボミについてきた。マダツボミを襲ったポケモン接触したフェルは次に狙われる可能性が高い。だが彼は『俺には消えて困る記憶はないんだから』と全く警戒する素振りがなかった。
「ええ、ちょっと故郷に戻ろうかと。落ち着きたいですし」
「俺は仲間じゃないけど炎除けは必要だろ? 送るよ」
 フェルは置きっぱなしになっていた地図の欠片をマダツボミに握らせた。
「それに託されたんだ。ちゃんと持ってろ。困った時には力になってくれる」
 地図の欠片を黙って見つめるマダツボミにフェルは問う。
「──重いか?」
「ちょっと、ね」
 畳んでバッグにしまった。
「フェルさんは記憶をなくした時、どう思いましたか?」
「俺達には分かんねぇや」
 フェルは肩を竦めた。
「ま、湿っぽい話はここまでだ。きっと──全てを最後に決めるのは想いの強さだ」

 


ずっとザグマのところに転がり込んでいるわけにもいかない。ポニータドンメルは賃貸を探して不動産屋を訪れた。フレイムの報酬と故郷にいたころに貯めた蓄えが少しだがある。霊感商法詐欺で一度ポニータの財産はすっからかんになったのが、フェルに連れられてクーリングオフしたら何故か財産が倍になっていた。クーリングオフするためにフェルがジバコイルへの通報をちらつかせたことで『口止め料』も加わったのだ。その後、きっちり通報されて詐欺で捕まっていたが。これなら敷金礼金保証金くらいは何とかなるだろう。
 不動産屋の店主がパイプの煙をくゆらせている。ちなみにタバコではなくアロマだ。店内には甘い香りが漂っている。賃貸カタログを見てドンメルは目を剥いた。
「た、高いっ」
 これじゃあ、収入が全部家賃で消えてしまう。
「賃貸は基本別荘みたいなもんだからね。建てた方が安くつく。この近くの土地はただ同然だしね。なんなら大工を紹介してもいいけど」
 家を建てられるほどのポケはなかった。ポニータたちは賃貸を諦めて小さな森の中にテントを張ることにした。ホームレス状態だが探検隊にはよくある状況だ。──上手く行けば問題なかったのだが。
 テント暮らし初日。ちょっとした仕事から帰ってきたポニータたちは泣き面に蜂が来て、更にドブにはまったような気持ちにさせられた。
「……」「……」
 長い沈黙が流れた。
「逆に清々しいわね」
「うわぁん、返せぇ」
 テントごと盗まれた。財産をまるごと盗まれたのだ。貯蓄はヨマワル銀行に預けてあるが、残り少ない。詰んだ。このままでは野生生活になりそうだった。幼い頃から文化環境で暮らしてきた彼女らにとってはかなりキツイことだ。ポケモンには大きく分けて二種類の社会がある。野で生きる弱肉強食の『自然世界』と、家を持ち金銭を扱う『文化世界』だ。文化世界のピジョンキャタピーを食物だとは見なさない。ポニータは草ポケモンを見たって『おいしそう』だと思えない。野生になるには価値観が違いすぎるのだ。
 にっちもさっちもいかなくて、情けないが誰か知り合いに『泊めて!』と頼み込むしかないのか悩んでいたら。
「お嬢さんたち! 久しぶりだな。どうかしたのかい?」
救世主テンガロンハットをヒモで首につけた(頭に被ってはいない)リザードリザードさんが通りかかった。リザードではなくリザードさんである。『さん』まで名前だ。
 リザードさんは紳士──というか無類の女性好……いや、何でもない。つまり女性に優しいタイプだった。
「浮かない顔をしているね。何か悩みでもあるのかい。俺で良ければ聞かせてくれないか」
 そう言われると我慢していた虚勢が崩れてしまう。
リザードさぁあん!」
ポニータは取りあえずリザードさんに泣きついた。あんまり知らない相手だけど。
ポニータたちの置かれている状況を知ったリザードさんはさらっと助け船を出した。
「俺さ探検家なのにダンジョンで──たとえ敵でも女の子を攻撃できないんだ」
「はい、知ってます」
 キツすぎるウィークポイントだ。むしろ♀攻撃できないのに探検家やるなよ。
「一匹で仕事をするのには限界があるんだ。どうだろう。お嬢ちゃんたちのやりたいことが決まるまでの間でいいから、俺の仕事を手伝ってくれる助手になってくれないか? 可愛くて強いレディが居てくれたらそれだけで100匹力だからね」
二匹は顔を見合わせた。
「どうする?」
「悪いポケモンじゃないみたいけど……ドンメルはどう思う?」
「なんかちょっと生理的に」
「あー、わかるわかる」
歯が浮きまくった挙げ句大気圏に行きそうな台詞を甘い声で囁かれると、背中の部分から冷えていく。体が痒くなって、カバルドンでもないのに口から砂を吐きそうだった。
「トキメキが足りないのよね」
「きゅん、とするラブ補正がないと痛くて寒いよ……イタタタガタガタ」
ラブ補正はフレイムには合わないんだからしょうがない。恋愛脳導入したらマダツボミが両手に花になっちゃうだろ!
「…それは困りますね」
だろう。原作捏造クラッシャーしてるけどギリギリの範囲を目指しているんだからね!
「いや、もうはみ出してます」
「……ねぇ、ポニータ。さっきから誰と話してるの?」
わりと手遅れになってから、ドンメルがツッコんだ。
わりと失礼な相談をした二匹は現実的な結論に至った。精神的な寒さと痛さにはいずれ慣れるものだ。
「「宜しくお願いします」」
主人公としてそれでいいのか甚だ疑問ではあるのだが──二匹は妥協したことをおくびにも出さずニッコリした。
こうしてドンメルポニータたちは新たな居場所を手に入れたのだった。もちろんマダツボミのことは引っかかっていたけれど……止まっているわけにはいなかなった。
(考えていても仕方ない)
 ポニータは浮かんだ思い出を振り払った。財産がテントごと盗まれたせいで、新居に必要なものが足りなかった。翌日、ポニータたちは買い出しをすることにした。
「燃えない耐火ワラのベットと──……」
選んでいると、店の外がなんだか騒がしいのに気づいた。買い物を済ませてから外に出ると、探検家や住民が集まってワイワイガヤガヤ話していた。
「…どうしたのかしら?」
 ドンメルが首を傾げた。
「聞いてみるよ! ……あの、何があったんです?」
「聞いてくれよ! いろんな悲境を切り開いたすげー探検隊が宿に泊まってるらしい」
住民は興奮気味に早口で喋った。彼の指す方向には宿屋がある。
「それでみんな一目見ようと集まってんだが、こんな騒ぎになったんじゃ今日はもう出てこないかな……」
ポニータ達も興味を持ったが、住民が言ったように一向に現れる気配はない。宿屋の入り口は野次馬対策だろう、大きな格闘タイプのポケモンが仁王立ちして塞いでいる。
諦めて帰ることにした。近道に裏道を通り抜けようとしたら、ほっかむりを被った怪しいポケモンたちが宿の裏口からこっそり出て行こうとしているのに出くわした。
 目が合った。
「「あ、」」
 そのギャロップウインディバシャーモには見覚えがあった。忘れたことはない。ポニータたちが探検隊を目指す切欠になったカリスマ探検隊だ。
「チーム『ガーディアン』、ギャロップのファイさん! ウインディのネイアさん! バシャーモのブレイズさんじゃないですか! お久しぶ……もがもが」
説明お疲れ様である。余談だが、作者はウインディの名前をど忘れして『忘れたからもう一度つけて』と相方に無茶振りしたらしい。ザッツ適当☆
 慌ててほっかむりを被ったネイアがポニータの口にスカーフを突っ込んで黙らせた。
「ちょっと! しーっ!」
「見つかるだろ!」
「色々びっくりしたけど……積もる思い出話はあとでしようね!」
ひょいとポニータはブレイズに抱えられ、ドンメルはネイアの背中に乗せられ──あれよあれよと言う間に人気ならぬポケ気のない場所まで連れて行かれた。
 
 
 
 
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……シリアスになりきらないのは何故だ(