僕らのその後〈3月〉

※コンテストはアニメ基準
※ゲンガー中心
ぴょこんと頭を覗かせた彼はそれを寝起きのぼんやりした頭で声に出して読んだ。
「んだこりゃ…なになに?『アーボここに眠る』?」
かちんと暫し静止。
「誰だこんなの書いたの!!」
春空に響く突っ込みひとつ。こうしてアーボの冬眠明けは突っ込みから始まった。
「よぉ生きてたのか」
「死んだのかと思ってたわ。幽霊じゃないわよね?」
 しかもチームメイトにも(もちろん冗談だ)酷い言われようである。
「アーボも戻ったことだし、世界征服活動再開だ!」
((まだ諦めてないんだ…))
「ん? どうした?」
「「いいや、何も」」
 アーボとチャーレムは目を逸らした。
 ゲンガーがそのことを言ったのは『世界征服会議』という頭の悪そうな事をしていた時だ。
「あーあ。どっかに旨い話転がってねぇかな……あ、そういやお前ら知ってるか? チィが人間に戻るんだってよ」
「ええ、聞いたわよ」
「え? あのチィが?」
「ケケケ、厄介な奴がいなくなってせいせいするぜ」
 そんな言葉の割にはゲンガーはどこか寂しそうだった。
 アーボ達はゲンガーとチィの関わりを知らない。ゲンガーが人間だったことも。チィに救われたことも。
 だけど、チームは違ってもチィを大切な仲間だとゲンガーが思っていることを感じ取れていた。素直ではないけれど。
「ねぇ、ボス。アタシたちはずっといるわよ」
「オレもオレも!」
「…何だよ、気持ち悪いな」
 そんな感傷的な気分をぶち壊すのは当の本人、チィである。
 その翌日。
 時は3月初旬。
 チィは今日もハイスピードで高速道路を逆走していた。
「ひなまつりをやるよ!」
 ゲンガーはチィの耳を掴んで宙にぶら下げた。
「ひなまつりは人形を飾ってお祝いするだけの祭りだったハズだよな。てめぇ、デマ広げるのいい加減にしやがれ!」
「えへへ」
 チィによるひなまつりが『改造版ひなまつり』であることに気づいているのはおそらくゲンガーだけだ。人間の文化を持ち込むのは構わない。だが、ホラを吹聴するのは止めてくれ。バレンタインでこちらとら被害を受けたばかりなのだ。
「いいじゃない」
「どこが!」
 するりとゲンガーの手から逃げ出してチィは笑う。
「誰にも受け入れられないお祭りは受け継がれないからね。で、どうするの? 参加するのしないの?」
「うぐぐっ」
 ひなまつりという名前で明日開催される『パフォーマンス大会』。漫才から仮装から歌唱から物真似までなんでもござれ。優勝チームには賞金3万ポケとバナナ。ちなみに全てチィのポケットマネーから出ている。どんだけポケがあるのだろう。
 参加はしたくはないが、この賞金額にはゲンガーのそぞろ心が揺れるのである。
「参加しましょうよ」
 チャーレムは乗り気だし。
「オレはどっちでも」
 アーボはこのとおり。
「あら、ゲンガーさんも参加されるのですか」
 何故かいるのがサーナイトサーナイトはひなまつりに縁がなかったらしくチィを疑っていないらしい。サーナイトに弱いゲンガーはその不意打ちにたじたじだ。
「いや、その」
「何をなさるのですか?」
「ええと」
「そうですね。明日まで秘密なんですよね。楽しみにしてますね」
「お、おう」
「へへへ、参加ありがとう〜。じゃあよろしくね」
「ちょっと待て、チィ!!」
 こうして既成事実は作られたのだった。
 即席のステージが広場に設置された。スポットライトの代わりにチョンチーが照らし、椅子の変わりに丸太を並べた。
「エントリーナンバー、一番! カクレオン兄弟七変化!」
 司会であるチィの声とともに、幕が開いた。
「えー、私たちは」
「なんと体色を変えるだけではなく自由な柄になれるのです! これぞ七変化!」
 しましま、迷彩、お花柄。ジグザグマ柄に、ザングース柄。
「これがラストです!」
「「半分スケルトン!!」」
 悲鳴が客席から上がった。
 こうしてパフォーマンスは終わり幕が下りた。チィはノリノリで仕切る。
「さて、評価は!」
 ピコピコピコピコ……とるるん。(全日本仮装大賞の効果音/残念)
「おーっと、残念。審査員に話を聞いてみましょう。大丈夫ですか? ペルシアンさん」
「最後のスケルトンが……思い出すと吐き気が……うっぷ」
「満点をつけているゴクリンさんはいかがでしょう?」
「いやぁ素敵ですねぇ、いい色してますよ内臓」
「では、お次はエントリーナンバー二番! プクリン!」
「ともだち、ともだち〜。セカイイチでジャグリングするよ! いちにのさん!」
 今度は感嘆の声。技巧を凝らした高度のジャグリングだ。しかも空中でセカイイチは少しずつ削られ(高スピードでちょっとずつ食べている)、形を変えていく。プクリン型になったりんごを最後は全部空中に投げて、大きな口を開けて一気にパクリと頬張った。
「もっしゃもしゃ……」
「さて、評価は?!」
 ピコピコピコピコ……タッタラタッタターン!(全日本仮装大賞の効果音/やったー)
「お見事、18点! さてどんどん行きますよ。お次は、エントリーナンバー三番! パッチール!!」
「わっちの地方での伝統的な踊りです〜。あっちいってほいほい、こっちいってほい。くるくる回ってジャンピング! パンパンパンの……あれ?」
「おーっと、パッチールのフラフラダンスに審査員一同が目を回しているぞ! 採点が出来ない!! というか、このままでは危険だ!」
 高い賢さのお陰で混乱を免れたチィは司会を続けながら辺りを見渡した。同じく混乱しなかった(特性がマイペースだ)ペインと目が合った。
アロマテラピーとか、いやしのすずとか使えない?」
「今は使えません!」
「そこは気合いで何とか!」
「どんな気合いですか?!」
 開始早々これである。
「ヤバいFLBが止められないー! バンギラス、落ち着いて! 地震は被害が半端ないよう!」
フーディンさん、やめてくださー…うわああああ!」
「ぺ、ペインー!」
「わっちのせいでわっちのせいで」
「落ち着いてパッチール! 別の意味で混乱しないで!」
 チィの奔走で被害は少なく済んだものの、混乱が完全に解除されるまでは地獄のターンだったそうな。ちなみにフーディンが参加してるのはチィの舌先三寸に騙されたからである。
「…ぜぇぜぇ、で、ではお次はエントリーナンバー4ば……ん」
 元気なんだか瀕死なんだか、チィはややボロボロだった。パートナーのピカすら彼女を白い目で見た。
「……いい加減懲りたら?」
「あはははは」
 笑ってる場合か。
 ちなみにゲンガーたちはエントリーナンバー9番である。正直ゲンガーはもう何もせず家に帰りたくなってきた。
 しかし無情にも彼らの順番は訪れる。
「チッ」
 ゲンガーは舌打ちをした。
(仕方ねぇ、腹ぁくくるか)
そして、ステージに踏み出した。気持ちを切り替え、声を張り上げる。
「イジワルズによる、一世一代のパフォーマンスだ!」
 ゲンガーたちのパフォーマンスは『ポケモンコンテスト』一次審査の真似事だ。技を組み合わせて演技をするのだ。
「まずは、ナイトヘッド!」
 黒い光を打ち上げた。
(──懐かしいな)
 昔やったことがたしかあったはずだ。サーナイトと。
遠い遠いあの日。大切なパートナーだったサーナイトのことも覚えていないかった。少しずつ、朧気ながら思い出してきたのはつい最近のことだ。
(あいつは俺の初めての友達で仲間だった)
だけどゲンガーはロクでもない人間で気づけなかった。忠告を聞かず無茶をし、逃げたのは自分の弱さだ。大切なものはいつも失ってから気づくのだ。
思い出したのは、数週間前の事だ。というか普段引きこもっているキュウコンが広場に来ていた。聞けばチィに例のことを頼まれたからだそうだ。
「そういえば、先日、チィさんに怒られました」
「んだよ」
「『尻尾もふもふするだけでタタルとか迷惑だよ!さっさと尻尾もふもふに慣れるが良い!』と言われまして、尻尾に軽く触れるとこから始まって最終的に揉まれました」
「あいつ大丈夫かよ」
「雷に打たれたり、ガケから転落したりしてましたね」
「バカだろ」
「ですが」
キュウコンは、優しく目を細めるのだ。
「『もう誰も呪われたり不幸になっちゃいけないんだよ。あなたにとっても哀しい力でしかないんだから』と」
 かつてサーナイトを祟ったキュウコンは『千年キュウコン』と呼ばれる特別なキュウコンの末裔だ。普通のキュウコンの尻尾を触っても大したタタリはかからない。せいぜい転んで膝を擦りむくとか、ちょっと悪夢にうなされるとかその程度だ。そうでもなければ、他のいきものと共存していくことが出来ないからだ。
千年キュウコンは、伝承のように千年生きるキュウコンで、種族全体が引きこもりなのだ。(もちろん普通のキュウコンはそこまで長く生きない。亀が万年生きないように)
 年月と隔離された空間がタタリをより恐ろしくしたのだとチィは断言したのだ。
「……彼女はやり遂げましたよ。封印されかけてまで」
 ゆらゆらと尻尾が揺れる。
「てことは」
「……触りますか?」
「絶対ごめんだ」
その後、FLBのリザードンが尻尾を触り、祟られて空中から落ちてきた金だらいが頭を打たれたと聞いた。
「てめぇ止めなかったのかよ。あいつ、いつか他人のために死ぬんじゃないか」
 ピカは被りを振るのだ。
「僕だって知らされてなかったよ。本当に無茶をするんだからうちのリーダーは」
 肩をすくめる仕草。
「でもね、チィは無償の愛を与えたりなんかしないんだよ。彼女がしたいことを彼女が自分のためにしてるんだ」
 止めない、止められない。
「きっと、それでいいんだよ」
 そう言ったいたピカの寂しそうな横顔を覚えている。
 チィの『サプライズ』と言うにとんでもない計画に加担させられているゲンガーはピカに何も言えなかったのだが、彼は信じている。
 ネイティオフーディンキュウコンも無理だと断言したことをチィはやりとげると。
 演技は終わり、歓声が響く。拍手が波のようにゆるやかに広がっていく。
 チィは相変わらず楽しそうにひなまつりを仕切っていた。
(なぁ、ネイティオ。お前に、この未来が見えるか?)
 そうしてチィは。
 三月の末日。
 12時きっかりに。
 
 
 
 この世界から姿を消した。
 
 



ちなみにゲンガーたちは三位で一万ポケ貰えました。(
『サプライズ』の内容を知っているのは、フーディンキュウコンサーナイトネイティオ、ゲンガー、ナマズンで、加担させられてるのはフーディンキュウコンサーナイト、ゲンガーです。